――近藤さんは2014年に、「POSTORY」を立ち上げられていますが、趣旨と立ち上げたきっかけを教えていただけますか?
手紙を書く時間は、相手のことを想い、自分のことを見つめる時間になり、それは自分や周囲を大切にすることにもつながります。そんな時間を増やしたいと思い、“手紙を書く時間”を創造するプロジェクトとして「POSTORY」を立ち上げました。
手紙に興味を持ったのは、切手がきっかけでした。江戸生まれの洋画家である高橋由一の「鮭」が描かれた切手を見て、「まるで掛け軸のようだ」と感じ、意匠の美しさにときめいたんです。そして切手や郵便に興味を持ち、調べるうちに、万国郵便連合(UPU)の理念である「地球上のほぼすべての地域から固定料金に近い形で郵便物が送れること」にたくさんの国々が合意していると知り、「これは世界が平和でなければ成し得ないものだ」と感じ、手紙の持つ平和的な側面や可能性に興味を持つようになりました。
――そのような、手紙の持つ平和的な側面や可能性を、「POSTORY」の活動の中で感じたことはありますか?
印象深いのは、上皇后陛下に所縁のある団体の代表の方から、「絵本を出版したため、手紙と一緒に上皇后陛下に献上したい」ということで、その手紙文のご依頼をいただいたときのことですね。絵本と手紙をお送りし、絵本は受け取っていただくことはできなかったのですが、「手紙は上皇后陛下にお渡ししました」と宮内庁の方からご連絡があったという、喜びのご報告がありました。上皇后陛下のような、通常であればお会いすることができない方にも、手紙であれば受け取っていただける可能性があります。それは手紙が、人の純粋な気持ちや想いを届けられるツールだからだと考えています。
――手紙が「純粋な想いを届けられるツール」というのは、デジタル社会で生活していると、なかなか気づけないことですね。
手紙に携わると、人の純粋な想いに感動することが多いんです。以前、とある経営者の方から、「退職する社員に手紙を出したいので、文面を一緒に考えてほしい」と依頼されたことがありました。その依頼文はかなりの長文で、大変読みやすく、かつ退職なさる方のことを巧みに表現していらっしゃいました。そのような、決して文面を考えるのが苦手ではない方が、「特別な手紙を書きたい」と思い、あえて私に依頼をくださいました。
相手への慰労や感謝の想いを形で表現しようとする真摯な姿勢に、「なんて美しいのだろう」と感動しました。手紙の魅力は、このような人の想いに触れられることだと思います。
――近藤さんは手紙を書くとき、どのような筆記用具を使うことが多いですか?
友人からいただいたガラスのペンや大分県の湯布院でつくられた竹のペンなど、自分にとって思い入れのある筆記用具を使用することが多いですね。カジュアルな手紙を書くときは、インクの色を変えて趣向を凝らしたりもします。
――今回、ZOOM L2を実際に使われてみた印象はいかがでしょうか?
とても持ちやすいですね。手と指先に馴染む感覚で、しっくり来ます。書いてみると、すーっと伸びていく、滑らかな書き心地です。すっきりと美しくきちんとした印象で、いつも使いたい、使えるようにそばに置いておきたい1本だと思います。
――そのほか、手書きならではの良さがあれば教えてください。
最近は、SNSなどで手軽にメッセージのやり取りができますが、会社の同僚や友人に向けての場合は、口語体でよいのでたまに手書きにすると、人となりが一緒に伝わって、思いがけず喜ばれることも多いと思います。
――確かに、人からもらったメモ書き程度でも、手書きであると嬉しいものですよね。「この人、こんな字書くんだ」という意外な発見があったりもします。
その通りです。手書きの魅力は「思考に基づく身体性、個の表現」ができること。手書き文字は声と同じくらい、とてもフィジカルで唯一無二なんです。自分の考えをフィジカルに、オリジナリティをもって表現できるのが「手書き」だと思います。パートナーや友人、同僚が書いた文字を見ると、新たな発見があるかもしれません。
――手書き文字を見ると、相手の顔も思い浮かびますよね。近藤さんが手書きの魅力を感じた印象的な体験があれば教えていただけますか?
私は、亡くなった祖母からもらった「手紙」を宝物にしています。祖母とはメールのやり取りをしていたのですが、祖母の手書き文字が欲しくて、おねだりしました。
その手紙には、鉛筆で「私の一番好きな人」と書かれていました。その素朴な鉛筆の文字に祖母の私への愛情が込められているのが伝わって嬉しかったですね。
この手紙を読み返すたびに、祖母が私のことを想い、愛を込めて書いてくれたんだという事実を何度でも受け止めることができます。
手紙は「残る」もの。嬉しいときも、悲しいときも、いつでも読み返せます。そして、手書きだからこそ、相手の想いに触れると同時に、その人が持つ唯一無二の温かさを感じられるのです。
近藤千草
「POSTORY」代表。おもに経営者層への手紙コンサルティング、企業用プロダクト製作、撮影、執筆などを行う。手紙に関するおもな連載に「折り折りの美─手紙の時間─」(はいばらオンラインミュージアム/日本橋榛原)、「もう一度読みたい文豪の手紙」(かもめの本棚online/東海教育研究所)など。
WEBサイト:https://postory.jp/
Instagram:@postory_jp
Direction:CREEK & RIVER
Writer & Photo:島尻明典
Pen:ZOOM L2(sumire)