僕は、自分のデザインコンセプトのひとつに「堅実な革新」を掲げています。どんなモノにも紡がれてきた歴史があり、僕はその歴史をたどることで原点を捉え、「堅実に未来につなげていきたい」といつも考えています。
「堅実な革新」をデザインとしてアウトプットする際は、「機能性と美しさを融合する」ことを意識しています。日常の中で便利に使うことができ、かつ美しい、使う人を選ばないデザインをつくる。これが、僕が目指している姿です。
相模鉄道20000系の時は、まず鉄道発祥の地であるイギリスに行き、ヨーク国立鉄道博物館を見学しました。そして歴史を学びながら現代の鉄道デザインを考え、最初につくりたいと思ったのが、「吊り革」です。機能的で美しい吊り革をつくり、鉄道車両の新しいアイコンにしたいと思ったんです。そのようにして、吊り革など手元に使うところからデザインを始め、車両全体に広げていきました。
実作業では、モックアップ(原寸模型)をたくさんつくり、実際に手に取りながら機能性と美しさのバランスを見極め、最適解を探していきます。
僕の場合、文字を書くより、紙に線を描くことの方が多く、デザインも紙に1本の線を引くことから始まります。手を動かして線を描くことで、脳が活性化し、頭の中がだんだん整理されていくんです。
アイデアをその場でアウトプットできるように、紙とペンは常に身の周りに置いています。瞬間的なクリエイティブに対応できるのは、パソコンではなく紙とペンですね。ペンで線を引くことは、僕にとって創造の原点といえます。
僕は、筆圧を強めにしても淀みなく線を弾けるペンが好きですが、「ZOOM L1」はまさに流れるような描き心地ですね。線が伸びていく感覚があって、とても使いやすいです。
持ったときの「太さと重さのバランス」もいいですね。「ZOOM L1」はちょうど中心に重心があり、手の収まりがよく、持つこと自体が気持ちいいです。
素材も面白いです。外軸と中軸の素材を分けた二重構造にしてあり、周囲の光の環境の変化で見え方が変わるので、使う楽しさがあります。適材適所が上手くいっていると思います。
僕は、プロダクトの素材は「適材適所」であるべきと考えています。モノの部分ごとに適した素材があるんですよ。「ZOOM L1」は外軸の透過素材や、先端が汚れても拭き取りやすい素材、持ち手がフィットしやすいようマットな素材を選んでいるなど、「適材適所」に成功していると思います。一見シンプルだけど、よく見るとこだわっている。こういうモノが長く使われ続けるのではないでしょうか。
モノの歴史をしっかりと反映し、素材選びとデザインに細部にまで徹底的にこだわったプロダクトは、必ずお客さまに伝わり、感動してもらえる唯一無二の存在になれると思います。1年後に淘汰されるようなものではなく、100年後にもデザインの遺伝子が残っているようなモノをつくっていきたいです。
鈴木啓太
プロダクトデザイナー、クリエイティブディレクター。古美術収集家の祖父の影響で、幼少より人が織りなす文化や歴史に興味を持つ。森林活用から都市環境、伝統工芸から3Dプリンティングなどのアディティブ・マニュファクチャリングまで幅広い分野に精通し、美意識と機能性を融合させたデザインで、国内外でプロジェクトを手掛ける。
Direction:CREEK & RIVER
Writer & Photo:島尻明典