新たにデザインされたZOOMを開発者のお二人はどのように設計していったのでしょうか。今だからお話できる当時の苦労話や開発秘話を開発者、河野壮人氏と野田洋平氏にお聞きしました。
――まず、お二人は新生ZOOMにおいてどのような作業を担当されたのでしょうか?
河野
簡単に言ってしまえば、デザイナーが作成した紙のスケッチやデザイン図を製品として実現させることになりますが、実現化するにあたって、どのような材料を使い、どのような部品構成にするかなど、コストや製造方法まで含めて多方面で考え、製品化することが私たち開発部の仕事です。実は、最初に新生ZOOMの話を聞いたとき、そこまで大きなプロジェクトだとは知らず、私一人が開発担当の予定でしたが、詳しく聞いてみると3種5製品ということで、私がC1とL1を担当し、L2を野田さんに担当してもらいました。
開発者、河野壮人氏
野田
もともと私はマーカーの開発を行なっていて、今回初めてボールペンやシャープペンシルの開発に携わりました。ですから、最初に話を聞いたときは面白そうと思ったものの、実際に進めていく中で大変なことも多く、苦労しながら、それでもやりがいを感じながら開発を進めてきました。
河野
想像以上に壮大なプロジェクトでしたからね。プロジェクトについて具体的に話を聞くにつれてこだわりがひしひしと伝わってきて、プレッシャーもありました。
開発者、野田洋平氏
――どのようなところにこだわりを感じたのですか?
河野
コンセプトやポリシーなど、世界観が出来上がっていましたからね。開発担当として、その世界観をきちんと実現しなければいけないと思ったんです。
野田
最初にZOOM製品の説明を受けたとき、素材へのこだわりや新しいことに挑戦したいというコンセプトを聞き、挑戦しがいのあるプロジェクトだと思ったと同時に実現するというところにプレッシャーを感じました。
河野
もともとあったZOOMというブランドをリブランディングするわけですから。それに、日本発のコンテンポラリーデザインペンということで、プロジェクトを説明するデザイナーの声に、いつもよりも大きな情熱を感じました。
――初めて新生ZOOMのデザインを見たときの印象は?
野田
私はL2を担当したのですが、最初に見たときの印象はスタイリッシュなペンという感じでした。でも、一つ一つのパーツが小さく局所的に細い箇所もあり、開発者としては強度面の心配がありました。
河野
ユーザー目線と開発者目線では見方が違うので、私もC1のノック部分が浮いているデザインを最初に見たとき、「本当にこれをやるの?」って思ったんです。もちろん、デザインとしてはかっこいいと思ったのですが、同時に、すごく難しそうというのが第一印象ですね。
野田
C1のノック部分はびっくりしましたよね。冗談半分で間に透明の部品が入っているんじゃないかとか言ったり。
河野
開発者としては、難しいものづくりになるなと思いましたね。L1に関しては、そこまで特徴的なデザインではないのですが、よく見ると難しい部分がたくさんあり、微妙に波を打っているキャップやクリップ構造や透明軸など、やはり一筋縄ではいかないと思いました。
――お二人とも第一印象で難しそうと感じたということですが、実際に設計するにあたって、特に意識したことはありますか?
河野
このデザインをできるだけ忠実に再現したいという思いはありました。細部にまで非常にこだわってデザインされていましたし、どこか一つ崩れると全体のバランスが崩れてしまうので、一つ一つのパーツを調整しながら全体のバランスを見て、デザイナーやプロジェクトメンバーとは何度もすり合わせを行いながら設計していきました。
野田
私も同じで、やはり日本発のコンテンポラリーデザインペンということで、デザインを再現することを第一に考えました。技術的に難しいところがあっても、デザインを変更して開発しやすくするのではなく、何度も検討を重ねて、今までよりも一歩踏み込んだ設計をすることができ、この仕上がりが実現できたのではないかと思っています。
河野
ただ、コンテンポラリーデザインペンといっても、決して尖りすぎているデザインではないんですよね。全体的にまとまりがありますし、開発者としては使い心地にもこだわりたいという思いがありました。例えば、C1ならノック部分が特徴的ですが、デザインだけでなく空白をノックするような特別感のある感触にこだわったり、L1ならキャップの開け閉めの感触に心地よさを感じるように試作や検証を重ねて設計しています。
野田
L2は触り心地のよさを特徴にしているのですが、それを実現させるために塗料にもすごくこだわっています。何種類もの塗料を比較検討し、かなりの時間と労力をかけて選定しました。
河野
正直に言うと、デザインや品質を妥協して作りやすくしようとすれば、いくらでも作りやすくできると思うんです。でも、やっぱり新生ZOOMに関しては、生半可なものを世に出しても受け入れられないという意識があったので、設計の落しどころをかなり高い位置に設定し、こだわり抜いて作りました。ですから、自分の中では非常に完成度の高い仕上がりになったと思っています。
――最後にお客様にメッセージをお願いします。
河野
今回、新生ZOOMということで3種5製品が出ていますが、どれもかなりこだわりを詰め込んだ製品になっています。開発部の我々も、お客様にそのこだわりが伝わるように設計しましたので、デザインだけでなく、書き味やノック感、キャップの開け閉めといった機能面も、実際にご使用いただきながら、こだわりを感じていただければと思います。
野田
すべての製品に関して、私たちも非常に満足のいく仕上がりになっていますので、ぜひお手にとっていただき、どれが自分に合ったものか、使いやすく感じるかを選ぶところから楽しんでいただきたいです。そして、大事に扱っていただけるのももちろんありがたいことですが、やはり使ってこそのペンですので、日常的に使っていただけたら嬉しいです。
河野さん、野田さんZOOM開発秘話お話いただきありがとうございました。
次回は、河野さんにディープな設計のお話を伺います。
Direction:MOSH books
Writer:前田和之
Photo:片岡祥