原愛梨の私の美学
魂を書き起こして世界一の書道家へ」

私の美学。

2025.3.21

ZOOMのコンセプトである1本の美学をテーマにいろいろな業界で活躍されている方々にご自身の価値観やこだわりを語っていただく私の美学今回は書と絵を融合させた書道アートを創り世界を舞台に活躍する原愛梨さんに現在のスタイルを生み出した経緯や大切にしてきた価値観とともにご自身の考える“美学”を語っていただきました。

私の文字で人を感動させることができるの?がきっかけだった

――原さんは2019年ごろからSNSに書道アートの作品をアップされていますが初めに書道と関わるようになったきっかけを教えてください

書道を始めたのは2歳からでした子どものころはとにかく一番になりたくて大会でも最高賞を取るために頑張っていました毎日ひたすら文字を書いて夏休みには毎日朝5時から夕方5時まで遊びに行くこともなくずっと書き続けていました
書道にどっぷり浸かった学生時代を過ごしてそのまま書道家になりたかったのですが親に就職しなさいと言われて一度は大学卒業後に銀行員になりました

――銀行で働かれていたのですか?

1年間ほど働きました銀行員時代は自分の特技を活かして封筒の宛名書きやお手紙などを書かせてもらっていたのですがある日私が書いた手紙を受け取ったお客さまが字がとても綺麗と泣いて喜んでくださったんです私の文字で人を感動させることができるの?と思いそれが大きな転機になりました

それまでは自分のために書道に打ち込んでいましたが私の書いた文字が人の心に届き人に喜んでもらえると知りやっぱり書道家になって人に想いを伝えていきたいと思い銀行を退職しました

――そこからどのような経緯で書道アートにつながっていったのですか?

まずは世界を見たいと思い勢いで海外に行って書道パフォーマンスをしたんですでも海外の人には漢字が上手く伝わらなかったんですよどうしたら伝わるか?といろいろ考えあるとき絵は世界共通だから書を絵にすることで言語の壁を越えて伝えられるのではないか? 絵を描くのも好きだしと思い文字と絵を組み合わせた書道アートを始めました

ただ最初はアートにするために文字を崩すことにすごく抵抗がありました子どものころから書き続けてきた正解が体に染みついていたので書に正解はないと頭では分かっていたのですが気持ちのうえで葛藤がありました

作品をSNSにアップしたときもこれは書道じゃないと言われるのではないかと怖かったのですが意外と楽しんでもらえて書道でこんなことができるの?書道は興味ないけどこれは好きという反応が増えてだんだん自分の中でもこのスタイルを肯定できるようになりました自信がついたのは野球選手の方をお名前で書いたらご本人からこれくださいとコメントをいただいたことですね私にしかできないことはこれだと思いました

魂を書き起こす

――原さんが書道アートを書くうえで大事にしていることは何ですか?

技術面では書く前にしっかりイメージすることです構図などを頭の中で鮮明になるまで考えることが重要でそこに一番時間をかけます書き始めたら修正は効かないので書く瞬間ごとに腕と手筆と紙と相談しながら文字のバランスを取っていきます

精神面では言葉の持つ想いをしっかり伝えることが何よりも大切です言葉選びとその言葉をどう表現するかは毎回慎重に考えています

――言葉の持つ想いをしっかり伝えることは原さんの美学にも通じてきますか?

はい私の作品は人の心に届いて完成すると思っているのでとても大事にしています言葉に形はありませんがこの書道アートなら形として後世に残すことができます

私自身は書道アートを魂を書き起こす 行為だと考えていますたとえばWe are the championsという言葉で不死鳥を書けば不死鳥のように何度も飛び上がる心があればどこまでも行けると表現できますこのように想いを文字にして形を与えることで“ひとつの魂”として作品にするそして私の作品を通して見た人の魂を動かすこのふたつの意味を魂を書き起こすに込めています魂を書き起こすことが重要でそのための表現方法にルールはつくっていません

――表現方法にルールはつくらないというと?

たとえばカシオさんとのコラボ作品では鉄を使った立体的なオブジェ を制作しましたずっと文字を紙から飛び出させたかったんです

それで造形業者さんに連絡して現場を見させてもらってちょっとやってみていいですか?とお願いし自分でプラズマカッターでカットしてみたんですそうしたら筆で書く感覚で文字を切り出すことができました職人さんもこんなことできる人見たことない!と驚いていました

――さまざまなことにチャレンジされているんですねほかにはどのようなチャレンジを?

最近でいうと余白の使い方を研究しています書道アートを始めた最初のころは絵のように書くことを意識していて隙間を埋めるように絵寄りの作品をつくっていたのですがもっと書の性質にフォーカスして書の魅力を引き出したいという気持ちもあり余白を重視した書寄りの作品も書き始めています干支シリーズなどがそうですね余白を活かし余白に詩情を込めるのは日本特有のだと思うので大切にしています。

世界一の書道家を目指して

――作品へのインスピレーションはどのように得ることが多いですか?

書や絵の展示会で刺激を受けることはもちろんありますがそれ以外にも人の話や経験談を聞いているうちにこの話作品にしたら面白そうと感じることが多いですねそのときの気持ちを表すために自分だったらどう書くかな?と考えるのが好きですあとは常に筆ペンを持ち歩いていて移動中などどんな状況でも思いついたときにすぐ筆を取れるようにしています後は漫画の線などからインスピレーションを受けることもあります。

――作品づくりでは言葉と絵とどちらから先にイメージしていくのですか?

両方あります素敵な言葉に出会ったらそこからどんな作品にしよう?その言葉を中心に考えますし逆に鳥が飛び立つ瞬間など素敵なシーンに出会ったらこの瞬間を切り取って作品を書こうと思います。

――作品を書くときに使う筆記具は筆や筆ペンがほとんどですか?

刷毛や自分の手を使うこともありますがやはり筆を使うことが多いですね筆の毛質にはこだわりがあってたとえば力強く書きたいときは硬さのある馬の尻尾を使用した筆を使い優しい印象にしたいときはやわらかい羊の毛を使用した筆などを使っています

筆のすごいところはより感情の起伏を表すことができること筆全体を使って大きく書くこともできるし穂先を使ってすごく繊細な表現も行えます筆圧やスピードの変化もかすれとして表現でき実は表現の幅がすごく広いと思っています

――普段の生活で筆ペン以外に筆記具を使いますか?

シャープペンシルボールペンを使うことが多いですね書き心地の良さを重視していますほかにも鉛筆を使うのも好きです鉛筆は筆と似ていて線の強弱をつけることができるので好んでいます。

――今回ZOOM L1を試していただきましたが書き心地の感想と使ってみたいシーンを教えてください

手がスッと動いていく心地良さがあります仕事柄文字を書くときはさまざまなことを意識していますがZOOM L1はその意識よりも先に手がスムーズに動いていく感じがして面白いですねあとインクの伸びがすごくよくてなめらかで書きやすいと思いますインクの色も墨に近い黒なので気に入りました

(ZOOM L1は)特別感があるので私が使うならお手紙を書くときに使いたいですいまアメリカに住んでいるのですがまだ英語で思い通りに意思疎通が取れないこともあり手紙で気持ちを伝えるようにしています次からは書き心地の良いこのペンで書きたいですね

――ありがとうございます最後に原さんの将来の夢を教えてください

書道をもっと世界に広めていきたいですアニメや日本文化の影響で漢字や書も海外で受け入れられていると思っていたのですが実際海外に行ってみるとそこまで知られていなくギャップを感じました書道のパフォーマンスをしてカリグラフィーだよと言ってもなにそれ?という感じでだからこそ書道アートとしてより伝わりやすく進化させた形で書道を広げていきたいと思っていますそして夢は世界一の書道家世界で書道家といえば原愛梨と認められるようになりたいです。

原愛梨
書道家書道アーティスト福岡県出身2歳から書道を始め最年少で文部科学大臣賞を受賞文字と絵を組み合わせた書道アートで大きな反響を呼ぶ2022年3月に初の個展を東京表参道で開催同年4月にニューヨークで書道パフォーマンスを披露2023年3~4月にニューヨーク同年8月にインドネシアシンガポール10月にパリ2024年4月にはドバイで個展やパフォーマンスを開催世界に活躍の場を広げている

原愛梨公式サイト Instagram:@airi_hara1002

撮影協力:六町ミュージアムフローラ

Direction:CREEK & RIVER
Writer & Photo:島尻明典

Pen:ZOOM L1