――ZOOMのコンセプトについて教えてください。
新生ZOOMのブランドコンセプトは「1本の、美学。」です。改めて「日本発のコンテンポラリーデザインペン」というビジョンを掲げ、それを体現するために、形にはまらない自由さと凛とした日本の美意識を併せ持ったペンを追求してきました。
もともと日本人が培ってきた美意識には「遊び」の要素がうまく取り入れられています。例えば、すごくキレイな形をしているけれど、どこかに「抜け感」がある。言ってみれば、美しい着物を少し着崩すような、そんな「抜け感」をZOOMにも取り入れたいと考えました。
プロダクトデザイナー、国府田 和樹氏
――それぞれのシリーズの特徴を教えてください。
C1の最大の特徴は浮遊感のあるノック部分ですが、当初からこのようなデザインを考えていたわけではありません。まずは一つの塊として美しい造形を作り、そこにどうすれば「抜け感」が加えられるかと考えて思いついたのが、ノック部分を浮かすというアイデアでした。塊感と浮遊感という相反するものが共存するデザイン、それがC1の特徴です。
「塊感と浮遊感の共存」をテーマに制作されたC1
ノック部分の浮かせ具合には特にこだわったそう。
L1は、造形としてはZOOMの中で最も普遍的なデザインです。その中で「抜け感」を表すために特にこだわったのが素材でした。通常、キャップに対して後軸にはアルミなどの金属を使用するのですが、L1では「いくつもの深い透明」と言うコンセプトのもと特別な素材を使っています。素材が透明なのか金属なのか分からないような曖昧なニュアンス。そこで、スタイルだけでは表現しきれない「抜け感」を作り出しました。
「いくつもの深い透明」をテーマにしたL1
素材が透明か金属かわからないことが抜け感を演出している。
L2は、一見すると普遍的なバランスを持ったデザインに感じるかもしれません。確かに、ノック棒やクリップの長さに際立った特徴はありません。しかし、それぞれの形状にこだわり、一つ一つを見ると個性的なデザインになっています。そして、それぞれの個性を活かしながら調和させることで、凛とした「抜け感」を表現しています。
「スイートとシャープの融和」をテーマにしたL2
1つ1つは個性的なパーツでありながらも全体ではしっかりと均整を取ったデザインだ。
――そもそも日本にこだわった理由は?
やはり、いずれは世界でデザインペンとして認知されるブランドになっていきたいという思いがあるからです。世界のペンと並んで、どうすれば「ZOOMらしさ」が表現できるかと考えたとき、日本で培われた美意識を出すことが重要だと思いました。また、もともとZOOMは1987年に誕生したブランドですが、その延長線上にありながら、より「ZOOMらしさ」と言うエッセンスを凝縮させたものが、今の新生ZOOMだと考えています。
――新生ZOOMを開発するにあたり、苦労した点はありますか?
デザイナーとしては苦労より楽しさが勝っていたのですが、実際に製品として完成するまでの工程の中で最も大変だったのは、私が考えたデザインを忠実に再現してくれた開発設計者の方々だと思います。C1、L1、L2すべてにおいて細部まで徹底的にこだわってデザインしましたので、中には設計に落とし込むのが大変だったものがあると思うんです。それでも、試作品ができたときに完成度が非常に高く、そこには感謝しかありません。
――それぞれのカラーについてのこだわりは?
C1とLシリーズでカラーの考え方が若干異なり、C1は純粋にZOOMらしいカラーリングを揃えています。ここで言うZOOMらしさとは、凛とした日本の美意識に基づいた色の考え方で、朱色や金色などの強い色を多く取り入れるのではなく、原色のない自然の色に両輪するカラーリングを目指しました。
左からグラファイトブルー、サンドシルバー、フルブラック
Lシリーズも基本的にはC1と同じ考え方をしていますが、そこに加えてトレンド要素を取り入れています。そして、そのトレンドを見極めるためにZOOMでは明確なペルソナを作成し、ターゲットとなるユーザーが好む配色を揃えています。
左上:フルブラック、シルバー、グラファイトブルー
左下:マットグレー、マットブルー、マットブラウン
――最後のお客様にメッセージをお願いします。
ZOOMのデザインを考えるにあたり、すごく細かいディテールまでこだわって作りました。その中には、きっと手に取っていただかないと気づけない部分もあると思いますので、ぜひ、手にもち、使ってみて、私たちのこだわりを感じ取ってもらえたら幸いです。
Direction:MOSH books
Writer:前田和之
Photo:木村文平