全てのはじまりはデザイナーが思い描いた新しいペンの姿

インタビュー

2023.2.10

プロダクトデザイナー 國府田 和樹氏 × グラフィックデザイナー 金井 知広氏

デジタルによる文字入力が主流になる直前の1986年ZOOMは誕生しました

Material of Original Zoneというコンセプトのもと型にはならない自由な発想でデザインされたペンは筆記具に新たなムーブメントを巻き起こします

驚くほどの極太ボディで強烈な存在感を放つファーストモデルの505筆記遊具と呼べるようなそれまでにはなかった革新的なデザインの606その後ZOOMは初代から受け継ぐエッセンスを磨き上げながら時代に合わせてモデルチェンジを繰り返しデザインペンとして確かな存在感を放ち続けています

そして2023年春日本発のコンテンポラリーデザインペンとして新たなZOOMが始動そこで新生ZOOMのプロダクトデザイナー國府田 和樹氏とグフラフィックデザイナー金井 和広氏に新生ZOOMの開発秘話を語っていただきました

ーーまず新生ZOOMはどのように生まれたのですか?

國府田 
もともと私の入社志望はZOOMのデザインをしたいというものだったのですでも入社当時ZOOMの元気がなくこのままでは自分の好きなZOOMがなくなってしまうかもしれないと思っただからなんとかしたいという気持ちがすべての始まりです

金井 
オフィシャルではないところでの動きが長かったですよね

國府田 
そうですね私が企画職からデザイン職に異動したというのが大きかったですねそもそもZOOMはデザインペンなのでデザイナーの立場から新しいZOOMを提案できないかと考えたんですただそのときに思ったのがブランドとしてしっかりやるなら製品周りのデザインだけでなくグラフィックなどがすごく重要になるということでしたそれで金井さんに一緒にやろうと声をかけたんです最初は会話ベースで雑談のようにZOOMの方向性を話し合ったりSNSで連絡を取り合って意見を交換したり二人でイメージを共有しながら新しいZOOMの形を作っていきました

プロダクトデザイナー、國府田 和樹氏

プロダクトデザイナー國府田 和樹氏

金井 
声をかけてもらったときすごくやりがいがありそうなプロジェクトだなとワクワクしたんですZOOMは普通の事務用品ではなくデザインペンなのできっとグラフィックの見せ方も変わるだろうしこれまでとは違うアプローチができるのではないかと思ったんですね実際新生ZOOMのプロジェクト自体は3年ほどですがその前段階にいろいろやりましたよねプロダクトだけでなくビジュアルの試作も作ったり

國府田 
お互いの目線を合わせるのにそれなりに時間がかかりましたね和のイメージを入れたいけどこれだとやりすぎとか先進的なイメージにしたいけど宇宙までは行きたくないとか

グラフィックデザイナー金井 知広氏

金井 
イメージビジュアルをたくさん並べてZOOMのイメージはどのあたりなのかとかも話しましたねオフィシャルではなく自分たちで好きにやっていたから時間に縛られることなく二人でとことん話し合えたと思っています感覚としてはビジネスというより友達と遊んでいる延長のような

國府田 
実際学生時代からの友達だけどね私がこの会社に金井さんを誘ったというのもあるのででも本当に堅苦しくなく素直に意見を言い合って自分たちの好きなものを突き詰めて行ったものがZOOMなのかなって思います

――正式にZOOMのプロジェクトがスタートしたのはどのような経緯だったのですか?

國府田 
二人でイメージの共有がかなり出来上がってから上司に提案したんですそうしたら上司も私と同じような考えを持っていて正式にプロジェクトがスタートしましたただ金井さんと私はすでにイメージの共有ができていたからそれをいかにアウトプットするかというのが主な仕事でしたコスト面や生産性など私たちのアイデアを現実に照らし合わせ落としていくのが意外と大変であと当然のことながら製品は私たちだけで作れるものではなくとても多くの人を介するので二人で作り上げたイメージをどうすれば共有できるかということにも力を注ぎました

金井 
やはり市場に出す製品であるなら売上などもしっかりと考えないといけませんからね自分たちの理想をどのようにそこに繋げていくかが一番苦労したことかもしれません

國府田 
確かに課題はたくさんありましたがそれでも苦労よりも楽しみが勝っていたような気がしますZOOMは普段わたしたちが企画している文房具に比べてターゲットが狭いんですね普段の文房具は広くたくさんの人に使っていただくことが重要ですがZOOMはその範囲が狭いそしてそのターゲットの中に自分がいるんですだから本当に自分の好きなことを追求していくという感じでその楽しさが大きかったのです

金井 
私も同じような感覚ですねそれにZOOMのプロジェクトを経験してすごくたくさんのものを得ることができたと思っています例えばパッケージのデザインなどで最初のイメージ通り作ろうとしたらコスト的に難しいという問題があったんですそのときにコストを考えながらどのように理想を現実にするかを考え素材などについてとても多くの知識を得ることができましただから私も苦労というよりやってよかったという気持ちの方が大きいですね

國府田 
理想を現実にという意味では量産試作品の一つ目ができたときはすごくうれしかったですねラフスケッチから始まってモックアップを作るなどずっと自分の頭の中や自分の手で作れる範囲で完結していたものが量産工程を経て出来上がったものを見たときようやく自分の手を離れ一つの製品になったと感じられたんです自分の理想が現実的な形になっていくところを見てとてもワクワクしたのを覚えています

――構想段階から二人でプロジェクトを進めお互い助けられた部分などはありますか?

國府田 
金井さんはZOOMに限らずとにかく仕事が速いんです私がアイデアを出すとすぐにグラフィックで具現化してくれて頭の中にあるものを目の前に出してくれるそうして一つ一つの仕事が速いとトライアンドエラーをたくさん重ねることができZOOMが今のような形にブラッシュアップできたのは金井さんの力が大きかったように思います

金井 
私の部署にはデザイナーが他にも多数いるのですが國府田さんに限らずそれぞれ感性が違っていつも刺激を受けているんですそれにずっと一緒にやってきた信頼があるので國府田さんからの指摘を素直に受け入れられるというか的を射るものばかりでブラッシュアップをするときどんどんよくなっていく感覚がありましただから國府田さんの感性にはかなり助けられた部分があると思っています

――どのような方にZOOMを使っていただきたいですか?

國府田 
ペンを選ぶとき多くの人が書き味や書きやすさを重視すると思うんですもちろんそれも大事なのですがそれとは違う魅力もあると思っています例えば装飾品や時計のように身につけるだけで気分が高揚するような所有することでワクワク感が得られるペンを目指してZOOMを作りましたですからZOOMを選んでいただいた方には単に実用性を求めるだけでなくモノとして欲しいと思っていただき持つこと自体を楽しんでいただけたらと願っています

金井 
私もほぼ同じような気持ちですがブランドの価値観というかデザインの価値観を共有していただけたらと思っていますブランドのキャッチコピーが1本の美学としているのですがやはり自分が本当に好きな1本を選ぶとき細部までこだわりの詰まったZOOMを選んでいただきたいという思いがありますそして価値観に共感していただきファンになってもらいZOOMを持ったり使ったりするだけで気持ちが上がるようになっていただけたらと思っています

國府田 
実際私もそうなのですがペンを使う機会は減っていると思うんですだけど絶対にペンは無くならないとも思っていて何か特別なときとか自分にとって大切なときにZOOMを使っていただけたらと思っていますもちろんメモを書き殴るときでも構わないのですが例えば私の場合スケッチをするときにZOOMを使うようにしていますするとその時間がとても豊かなものになるような気がするんです

金井 
やっぱり自分がこだわりを持って選んだものを使うと気分が上がりますよね何かを書く行為って自分のイメージをアウトプットする手段としてはすごく基本的のように思っていますだからそのときに自分が本当に好きなペンを使えば箸が進むじゃないですけど筆が走ると思うんですそうするときっと書く行為自体が楽しくなるのではないでしょうか

國府田 
単なる作業が作業でなくなるというかより豊かな時間になると思います

Direction:MOSH books
Writer:前田和之
Photo:木村文平