池田一真の私の美学
臆病であることが作品を面白くする」

私の美学。

2025.6.27

ZOOMのコンセプトである1本の美学をテーマにさまざまな業界で活躍されている方々にご自身の価値観やこだわりを語っていただく私の美学今回は櫻坂46や乃木坂46B’zゲスの極み乙女など多数のアーティストMVやテレビCM第68回NHK紅白歌合戦 グランドオープニング映像などを手がける映像ディレクターの池田一真さんにご自身の仕事術や”美学”を語っていただきました。

新しいチャレンジが成長につながりターニングポイントになる

――池田さんは多彩な映像表現を用いて映像作品を数多くディレクションされていますが最近の印象的だったお仕事から教えてください

いま開催中のEXPO 2025 大阪関西万博のパビリオンのひとつ未来の都市内にあるコモン展示02の総合演出です未来の都市探訪をテーマに僕が4本の企画を作ってそれぞれ4人のクリエイターに映像を制作してもらいました。

――総合演出というお仕事は映像のディレクションとは違いましたか?

普段制作しているアーティストのMVや企業CMにはコンセプトやメッセージがありそれがお題として与えられて表現しますが今回は幸せの都市へという大テーマがあるだけで具体的にそれをどう価値として生み出していくかという根幹の部分から携わる新しいチャレンジでした

その価値創造の部分とクライアントが伝えたいことを理解したうえでこういうストーリーですとプレゼンをしたのですが作品になる前にクライアントやクリエイター陣スタッフに向けて何を作りたいのかを明確に分かりやすく伝えることの重要さを改めて学びましたね普段はディレクターとして撮影現場や編集でなんとかしていた部分も感覚的な部分もきちんと言語化しないと熱量も伝わらないんだとよく分かりましたそしてその軸がブレないように総合演出として何度も原点に立ち返り1年間くらいどうすれば面白くなるかをずっと考え続けていましたしんどいことも多かったですが新しいチャレンジは自分の成長につながるし仕事の幅が広がるターニングポイントにもなったので挑戦して良かったです

――総合演出という仕事自体が新しいチャレンジだったのですね映像ディレクターとして最近で印象的だったお仕事は何でしょうか?

2025年2月に公開された櫻坂46のUDAGAWA GENERATIONですサーカス小屋を舞台に櫻坂46のメンバーにサーカス団員や道化師として役を演じてもらったのが彼女たちにも僕にも新しいチャレンジでした

いつもは楽曲を伝えるために思いっきりパフォーマンスしてくださいと伝えて演出で肉付けしていますが今回は演者として苦しくても一生懸命パフォーマンスをすることを演技してもらいたかったこともありMVのストーリーに合わせて細かく演出を入れました 自分たちがいいはずだと思って努力して表現しているのに伝わらなかった演者のそれでも笑顔で踊るというコンセプトを表現しましたそして苦しくても笑顔で踊るのはアイドル自体にも当てはまります複層的な構造のMVですが好評で安心しました

櫻坂46『UDAGAWA GENERATION』MUSIC VIDEO

裏をかきたいという気持ちは強いかもしれない

――奥が深くて面白いコンセプトですねそのような面白い作品を生み出すためにもっとも大事にしていることは何でしょうか?

やはり最初のアイデア段階でしっかり面白くしそのアイデアをプロットや絵コンテで形にすることですここが一番大事で一番難しいですね。

――具体的にはどういったことが難しいのでしょうか。

考え続けなきゃいけないことですこんな感じかなというアイデアはたくさん出てくるんですよでもすぐ思いつくことは誰もが思いつくことなので面白くありません

たとえ面白いアイデアが最初に思い浮かんでも考えることはやめず締め切り時間いっぱいまでそのアイデアが本当に面白いか企画に対して正しいか自問自答を繰り返して作業場でもんもんと考え続けていますこの時間が本当にしんどいです

――面白いアイデアを思いついてもずっと考え続けるのはかなりタフなことですね。

ゴールが見えないマラソンをしているみたいな感覚です考えているときはプロットや絵コンテを描きたくなっても我慢します絵コンテとして形にするとアイデアがどんどん定着していくような感覚があってその後あまり変えられなくなってしまうんですよ頭の中がぐちゃぐちゃの状態で考える時間が長めに必要なんです。

――池田さんが考えていることの一端を教えてください面白さを生み出すために意識されていることはありますか?

観てくれる人の裏をかきたいという気持ちは強いかもしれないですねたとえば恋愛ソングのMVをつくるときは恋愛とは関係なさそうなアプローチで表現したいなと考えることは多いです。

例を出すとゲスの極み乙女の人生の針最初に家で男女が生活を営んでいるようなMVにしたいという話がありそれだったらちょっと猟奇的なエッセンスを入れてしかもそれを全部ダンスで表現したら面白いんじゃないかなと思いましたそこに人生の針を巻き戻すというテーマを入れ画面手前を逆再生のドラマパートにし画面奥側を順再生の演奏パートにしましたストーリーは最後に話の内容が分かる構造にしておりラストにもひとつ仕掛けを入れているのでぜひ観てみてください

ゲスの極み乙女「人生の針」

――お話を伺うだけでワクワクするようなMVですね池田さんはどんなときにワクワクし映像ディレクターという仕事に面白さを感じていますか?

映像の制作には予算や時間さまざまな都合があるので自分のやりたい表現を100%実現できることは少ないのですがそんな中でも表現が上手くいったときは嬉しいですねあとは撮影現場で自分が考えていた以上に良くなったときや自分が思い描いていたものとは違うけど何かすごいことになっているみたいなこともありそんなときにワクワクしてこの仕事の醍醐味を感じます。

仕事で達成感を得られるタイミングは2回あってこれは安堵感の方が大きいですがひとつは作品が完成したときあとは作品が公開されて評判が良かったとき面白いと言ってもらえると心から嬉しいのでしんどくても続けています。

自分の筆跡がメモとして機能する

――池田さんはお仕事の中で手書きをしたり手書きの効果を感じることはありますか?

昔は鉛筆を使って絵コンテを描いていましたが最近はタッチペンを使ってタブレットに描いているので手書きをする機会は減りましたねその分大事な書類にサインをするときなど重要な局面で手書きをしている気がしますただタッチペンを使うときも手と指を動かして描いているのでそういった意味では手書きの効果は感じています。

――どのような効果を感じていますか?

手を動かして書くと記憶に強く残るんですよね絵コンテを見返したときにこのときこう描きたかったんだけど上手く描けなかったなこのシーンにはこういう狙いがあったななどさまざまなことを思い返すことができます

仕事で絵コンテをクライアントに見せるときは僕が描いた絵コンテをプロのイラストレーターさんに清書してもらうことも多いのですが人に描いてもらった絵だと自分のアイデアなのに何だっけこれ?と思ってしまうことがよくあるんですよだから清書してもらっても自分で描いた絵コンテは残しておくようにしています自分の筆跡がメモとして機能しそのときの想いや考えを思い出せるので

――筆跡がメモになるというのは新鮮なご意見です今回ZOOM C1を試していただきましたが印象と書き心地はいかがですか?

ZOOM C1|空白を、ノックする。

ノックボタンが浮遊して見えるのがとても面白いですね砂漠にある風で根元が削られて浮いているように見える岩を思い浮かべましたこの構造を考えたプロダクトデザイナーさんの発想に興味があります

書き心地はとてもなめらかで書いていてとても気持ちがいいですねタッチペンは書き心地がつるっとしていますがZOOM C1は筆圧を変えたときに指にダイレクトにフィードバックがありその感覚が心地いいです当たり前ですが手を使って書いているという実感を得られます

――ありがとうございます最後に改めて池田さんの美学 を教えてください

臆病であることです。

すごく臆病なんです先ほども作業場でもんもんと考え続けていると言いましたがよしこれで行こうと簡単に線引きできないんですよもっといいアイデアがあるんじゃないか?この辺で妥協しちゃうと大した仕上がりにならないんじゃないか?もっと違うやり方がないか?という不安を拭えないので締め切り時間まで永遠と考えてしまうんです

でもその臆病力ものをつくるうえで僕にとっては大事なことなんです心配だから考え続けるし失敗したくないから細かく準備するし自分にプレッシャーを与えることが緊張感を持って仕事に臨むことになる自分の仕事に飽きない状況に置くことが結果的にクオリティに繋がるのだと思います臆病であることは重荷ではなく僕にとって大事な熱源です

池田一真
映像ディレクターP.I.C.S. management所属アイデアやユーモアに溢れた映像表現を得意とし手法にとらわれない柔軟なディレクションでテレビCMから企業ブランディング映像MVアニメーションコンテンツやアトラクション用の空間映像まで多岐に渡る媒体やジャンルを手がける2020年NETFLIXNetflix 人間まるだし60th ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS / フィルム部門 テレビCM – 総務大臣賞グランプリを受賞2021年櫻坂46流れ弾MTV VMAJ 2021の最優秀邦楽新人アーティストビデオ賞を受賞

Direction:CREEK & RIVER
Writer:島尻明典
Photo:吉村永

pen : ZOOM C1