――池田さんは、多彩な映像表現を用いて、映像作品を数多くディレクションされていますが、最近の印象的だったお仕事から教えてください
いま開催中のEXPO 2025 大阪・関西万博のパビリオンのひとつ、「未来の都市」内にある「コモン展示02」の総合演出です。「未来の都市探訪」をテーマに、僕が4本の企画を作って、それぞれ4人のクリエイターに映像を制作してもらいました。
――総合演出というお仕事は、映像のディレクションとは違いましたか?
普段制作している、アーティストのMVや企業CMにはコンセプトやメッセージがあり、それがお題として与えられて表現しますが、今回は「幸せの都市へ」という大テーマがあるだけで、具体的にそれをどう「価値として生み出していくか」という根幹の部分から携わる、新しいチャレンジでした。
その価値創造の部分と、クライアントが伝えたいことを理解したうえで、「こういうストーリーです」とプレゼンをしたのですが、作品になる前に、クライアントやクリエイター陣、スタッフに向けて、何を作りたいのかを明確に分かりやすく伝えることの重要さを改めて学びましたね。普段はディレクターとして、撮影現場や編集でなんとかしていた部分も、「感覚的な部分もきちんと言語化しないと熱量も伝わらないんだ」とよく分かりました。そしてその軸がブレないように、総合演出として何度も原点に立ち返り、1年間くらい、どうすれば面白くなるかをずっと考え続けていました。しんどいことも多かったですが、新しいチャレンジは自分の成長につながるし、仕事の幅が広がるターニングポイントにもなったので、挑戦して良かったです。
――総合演出という仕事自体が新しいチャレンジだったのですね。映像ディレクターとして最近で印象的だったお仕事は何でしょうか?
2025年2月に公開された櫻坂46の『UDAGAWA GENERATION』です。サーカス小屋を舞台に、櫻坂46のメンバーにサーカス団員や道化師として役を演じてもらったのが、彼女たちにも、僕にも新しいチャレンジでした。
いつもは「楽曲を伝えるために思いっきりパフォーマンスしてください」と伝えて、演出で肉付けしていますが、今回は演者として「苦しくても一生懸命パフォーマンスをする」ことを演技してもらいたかったこともあり、MVのストーリーに合わせて細かく演出を入れました。 自分たちが「いいはずだ」と思って努力して表現しているのに、伝わらなかった演者の、それでも笑顔で踊るというコンセプトを表現しました。そして苦しくても笑顔で踊るのは、アイドル自体にも当てはまります。複層的な構造のMVですが、好評で安心しました。
櫻坂46『UDAGAWA GENERATION』MUSIC VIDEO
――奥が深くて面白いコンセプトですね。そのような面白い作品を生み出すために、もっとも大事にしていることは何でしょうか?
やはり最初のアイデア段階でしっかり面白くし、そのアイデアをプロットや絵コンテで形にすることです。ここが一番大事で、一番難しいですね。
――具体的には、どういったことが難しいのでしょうか。
考え続けなきゃいけないことです。「こんな感じかな」というアイデアはたくさん出てくるんですよ。でもすぐ思いつくことは、誰もが思いつくことなので面白くありません。
たとえ面白いアイデアが最初に思い浮かんでも考えることはやめず、締め切り時間いっぱいまで、そのアイデアが本当に面白いか、企画に対して正しいか、自問自答を繰り返して、作業場でもんもんと考え続けています。この時間が本当にしんどいです(笑)。
――面白いアイデアを思いついても、ずっと考え続けるのはかなりタフなことですね。
ゴールが見えないマラソンをしているみたいな感覚です。考えているときは、プロットや絵コンテを描きたくなっても我慢します。絵コンテとして形にすると、アイデアがどんどん定着していくような感覚があって、その後あまり変えられなくなってしまうんですよ。頭の中がぐちゃぐちゃの状態で考える時間が長めに必要なんです。
――池田さんが考えていることの一端を教えてください。面白さを生み出すために意識されていることはありますか?
「観てくれる人の裏をかきたい」という気持ちは強いかもしれないですね。たとえば恋愛ソングのMVをつくるときは、「恋愛とは関係なさそうなアプローチで表現したいな」と考えることは多いです。
例を出すと、ゲスの極み乙女の『人生の針』は、最初に「家で男女が生活を営んでいるようなMVにしたい」という話があり、「それだったら、ちょっと猟奇的なエッセンスを入れて、しかもそれを全部ダンスで表現したら面白いんじゃないかな」と思いました。そこに「人生の針を巻き戻す」というテーマを入れ、画面手前を逆再生のドラマパートにし、画面奥側を順再生の演奏パートにしました。ストーリーは最後に話の内容が分かる構造にしており、ラストにもひとつ仕掛けを入れているので、ぜひ観てみてください。
ゲスの極み乙女「人生の針」
――お話を伺うだけでワクワクするようなMVですね。池田さんはどんなときにワクワクし、映像ディレクターという仕事に面白さを感じていますか?
映像の制作には予算や時間、さまざまな都合があるので、自分のやりたい表現を100%実現できることは少ないのですが、そんな中でも表現が上手くいったときは嬉しいですね。あとは撮影現場で、自分が考えていた以上に良くなったときや、「自分が思い描いていたものとは違うけど、何かすごいことになっている」みたいなこともあり、そんなときにワクワクしてこの仕事の醍醐味を感じます。
仕事で達成感を得られるタイミングは2回あって、これは安堵感の方が大きいですが、ひとつは作品が完成したとき。あとは作品が公開されて、評判が良かったとき。面白いと言ってもらえると心から嬉しいので、しんどくても続けています。
――池田さんは、お仕事の中で手書きをしたり、手書きの効果を感じることはありますか?
昔は鉛筆を使って絵コンテを描いていましたが、最近はタッチペンを使ってタブレットに描いているので、手書きをする機会は減りましたね。その分、大事な書類にサインをするときなど、重要な局面で手書きをしている気がします。ただ、タッチペンを使うときも手と指を動かして描いているので、そういった意味では手書きの効果は感じています。
――どのような効果を感じていますか?
手を動かして書くと、記憶に強く残るんですよね。絵コンテを見返したときに、「このとき、こう描きたかったんだけど、上手く描けなかったな」や「このシーンには、こういう狙いがあったな」など、さまざまなことを思い返すことができます。
仕事で絵コンテをクライアントに見せるときは、僕が描いた絵コンテをプロのイラストレーターさんに清書してもらうことも多いのですが、人に描いてもらった絵だと、自分のアイデアなのに「何だっけ、これ?」と思ってしまうことがよくあるんですよ。だから、清書してもらっても自分で描いた絵コンテは残しておくようにしています。自分の筆跡がメモとして機能し、そのときの想いや考えを思い出せるので。
――筆跡がメモになるというのは新鮮なご意見です。今回、ZOOM C1を試していただきましたが、印象と書き心地はいかがですか?
ZOOM C1|空白を、ノックする。
ノックボタンが浮遊して見えるのがとても面白いですね。砂漠にある、風で根元が削られて浮いているように見える岩を思い浮かべました。この構造を考えたプロダクトデザイナーさんの発想に興味があります。
書き心地はとてもなめらかで、書いていてとても気持ちがいいですね。タッチペンは書き心地がつるっとしていますが、ZOOM C1は、筆圧を変えたときに指にダイレクトにフィードバックがあり、その感覚が心地いいです。当たり前ですが、「手を使って書いている」という実感を得られます。
――ありがとうございます。最後に、改めて池田さんの「美学 」を教えてください
僕、すごく臆病なんです。先ほども、「作業場でもんもんと考え続けている」と言いましたが、「よしこれで行こう」と簡単に線引きできないんですよ。「もっといいアイデアがあるんじゃないか?」「この辺で妥協しちゃうと、大した仕上がりにならないんじゃないか?」「もっと違うやり方がないか?」という不安を拭えないので、締め切り時間まで永遠と考えてしまうんです。
でも、その「臆病力」が、ものをつくるうえで僕にとっては大事なことなんです。心配だから考え続けるし、失敗したくないから細かく準備するし、自分にプレッシャーを与えることが緊張感を持って仕事に臨むことになる。自分の仕事に飽きない状況に置くことが、結果的にクオリティに繋がるのだと思います。臆病であることは重荷ではなく、僕にとって大事な熱源です。
池田一真
映像ディレクター。P.I.C.S. management所属。アイデアやユーモアに溢れた映像表現を得意とし、手法にとらわれない柔軟なディレクションで、テレビCMから企業ブランディング映像、MV、アニメーションコンテンツやアトラクション用の空間映像まで、多岐に渡る媒体やジャンルを手がける。2020年、NETFLIX「Netflix 人間まるだし。」で、60th ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS / フィルム部門 テレビCM – 総務大臣賞、グランプリを受賞。2021年、櫻坂46『流れ弾』で、MTV VMAJ 2021の最優秀邦楽新人アーティストビデオ賞を受賞。
Direction:CREEK & RIVER
Writer:島尻明典
Photo:吉村永