Designer's Impression|北山雅和
クラフトマンシップとコンテンポラリーデザインを両立したZOOM C1

Designer's Impression

2025.1.10

各分野で活躍するデザイナーの方々にZOOMを手にしてもらいプロの視点で印象を語っていただくDesigner’s Impression今回はコーネリアスやオカモトズ秦基博など数多くのミュージシャンのアートワークやNHK連続テレビ小説カーネーションのタイトルロゴを制作しながら自身の個展で立体タイポグラフィ作品を展開する北山雅和さんにお話を伺いました。

文字は考えさせるスイッチの役割を果たす

――北山さんはキャリア初期にコーネリアスやピチカートファイヴなどで知られるシブヤ系と呼ばれた当時の音楽シーンの中心でCDジャケットなどのデザインを手掛けられていましたがそもそもグラフィックデザイナーを目指したきっかけから教えてください

もともと絵を描くのは好きでしたが学生のころは現代美術家の大竹伸朗さんに憧れて抽象的な絵を描いたりコラージュをつくりながら漠然とこの道が自分の将来につながっていけばいいなと思っていた程度でしたその後桑沢デザイン研究所に入学してデザイン全般を学び卒業後はデザイン事務所のアシスタントを掛け持ちで始めましたそこで大竹伸朗さんとも交流のあった野本卓司さんというデザイナーと出会いました彼は当時アパレルや音楽(業界)の分野で活躍されていてしかもフリーランスとして自分のペースで仕事を請けているそんなスタイルに興味を抱き初めてグラフィックデザイナーっていいなと思うようになりました。

――そのあとどういう経緯で数々のミュージシャンたちとお仕事をするようになったのでしょうか?

アルバイトをしていたデザイン事務所のひとつに正社員として入社し広告デザインを手掛けていましたが3年間働いてもっと純粋に音楽関係など好きなことで仕事がしたいと思いましたそんな中CDジャケットなど音楽関係のデザインを数多く手掛けるコンテムポラリープロダクションの信藤三雄さんを知り偶然にも後輩の繋がりからお話しする機会を得ました暫くしてアルバイトのお誘いがありいきなりミスターチルドレンのサンプル盤のジャケットデザインを1枚任されてつくってみたら信藤さんがいいじゃんと認めてくださり信藤さんのもとで働くことになりましたそこで今も付き合いのあるコーネリアスの小山田圭吾くんと会い一緒に仕事をするようになりましたね。

――コンテムポラリープロダクション時代ではどのようにデザインの幅を広げていったのですか?

信藤さんから多くを学びました彼は映画や音楽などから要素を取り入れて自分の中で昇華させてデザインで表現するのが抜群に上手かったですね好きなものを徹底的に観て触って自分の中に落とし込む信藤さんの手法はとても参考になりましたデザインそのものというよりは信藤さんが影響を受けているものを自分も知り一緒に体験する感覚で学んでいきました。

――その後独立されてHelp!を立ち上げられた経緯は?

コンテムポラリープロダクションに5年間在籍し30歳になったタイミングでした好きな仕事でしたがちょうど子供が生まれたということもありプライベートと激務のギャップにだんだんと違和感を感じてきていたのでいったん整理して自分のペースで仕事をしたいと思ったのが理由です迷いましたが自分が進みたい道を正直に選択した結果アルバイト時代最初に興味を抱いた野本さんのようなフリーランスというスタイルに近づいていきました。

――独立後に印象的だったお仕事は何でしょうか?

依頼を受けてチャレンジしてみた手法が新たな作風となり幅が広がることが多かったですたとえばサッカー関連のCDジャケットで自分の描いた水彩画を使用したところ水彩画の依頼が増えそれらを見たカーネーションのOP映像ディレクションを担当した辻川幸一郎さんからオファーをいただきタイトルロゴを制作することになりました近年はTYPOGRAFFITIタイポグラフィティというタイポグラフィを用いた展示を続けていることからまた違った仕事に繋がったりもしています。

――TYPOGRAFFITIではどのようなことを表現されているのですか?

自分が得意とするタイポグラフィとジョンレノンのWAR IS OVER!やロバートインディアナのLOVEなどのメッセージアートを組み合わせたような何か新しいものをつくってみたいと考えました
タイポグラフィを用いたのは見知ったはずの言葉に改めて向き合うスイッチ考えるきっかけ問いかけをダイレクトにユニークにデザインで表現できるのではないかと考えたからです。

――TYPOGRAFFITIの作品づくりでこだわっていることは何ですか?

素材選びですTYPOGRAFFITIは今まで4回開催しておりアクリルミラーアルミニウムを使ってきました最初にアクリルを選んだのは形を持たない言葉を透明な素材で表現したかったから次にミラーを選んだのは作品である言葉に向き合うことがそこに写る自分と向き合うことになるその往き来が面白いと思ったからですそしてアルミニウムを選んだのは90%を超える高いリサイクル率の再生可能素材だからということもあります環境的に前向きに取り組んでいるものは自分自身興味を引かれますし社会に対して問いを出していくときに表現と自分の間にできるだけ矛盾がないようにしたいと考えています。

ZOOM C1は未来の乗り物のような理想的なフォルムを実現している

――今回はZOOMのメインラインであるZOOM C1を手に取っていただきましたがデザインの印象や率直な感想からお聞かせください。

自然な流線形でラインがすごくキレイですね余計なものを削ぎ落とした無駄のない理想的なフォルムに見えます筆記具というよりはどちらかというと乗り物のような昔好きだったスーパーカーやロケットにあった未来感のあるフォルムのカッコよさを感じますそしてノックボタンが浮いているように見えるのが面白いですねこの構造にはかなり刺激を受けましたモノの構造への興味が湧いてきましたね

手に持った感じはちょっとひんやりして心地よく高級感がありますジュラルミンの質感をしっかり感じられますでも重すぎず持ちやすいと思いますデザインのラフを描いたりメモをとったり打ち合わせのときに筆記具として使ったりと日常の中で使うと気分をあげてくれそうです

――ZOOMは日本発のコンテンポラリーデザインペンですがこのコンセプトについてはいかが思われますか?

コストダウンを求める製品が多い中デザイン性を重視するスタンスに敬意を抱きます品質にこだわってモノづくりをしたいというクラフトマンシップを持ちながらもとても現代的でコンセプチュアルなデザインを生みだしていてこのふたつが両立しているのが面白いですね見たときにキレイだなと思ったり触ったときに気持ちいいなと感じることはすごく大事なことここに到達するまでにモデリングを相当練られたんだと思います実際触っていてとても気持ちよく何か書きたくなってきますね。

――北山さんご自身は手書きをされる機会は多いですか?

多い方だと思いますパソコンやスマホを使うよりも手書きの方が記憶しやすいんですよねスケジュールも手書きにすることで忘れにくくなるし書くという行為自体が体を動かすスイッチになると感じていますまた手書きをすることで偶発的に何かがうまれることも多いと思います創作に偶然性を利用する手法をチャンスオペレーションといいますが手で書くことで自分の認知の外側から何かがやってくることがあるのは感じますその偶然性はとても面白く自分を動かすチカラになると思います。

――貴重なご意見をありがとうございました! 最後に北山さんが普段デザイナーとして心がけていることは何でしょうか?

答えではなく問い続けることでしょうかデザインはアートとの比較で語られることが多くよくデザインは”答え”でアートは”問い”だと言われますでも僕はちょっと待ってと思うんです確かにデザインは特にお客さまがいる場合お客さまの要望に答える形で制作していきますでもデザインを用いても作品を見た人に問うことはできる考えてもらうスイッチを押すことはできると思うんですだから僕はデザイン表現を用いて今後も問いかけ続けたいと思っています。

北山雅和
グラフィックデザイナー桑沢デザイン研究所を卒業後コンテムポラリープロダクションを経て1998年にHELP!を設立CorneliusceroOKAMOTO’S秦基博GEZANなど数多くのミュージシャンへのアートワーク制作NHK連続テレビ小説カーネーションタイトルロゴなどを手がける2007年作品集LiGHT STUFfが第11回メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選定2015年より個展‘TYPOGRAFFITIを展開する

Direction:CREEK & RIVER
Writer & Photo:島尻明典

ZOOM C1