Nao'ymtの私の美学
影に美を見出し音楽で形にする」

私の美学。

2026.1.23

ZOOMのコンセプトである1本の美学をテーマにさまざまな業界で活躍されている方々にご自身の価値観やこだわりを語っていただく私の美学今回は三浦大知さんや安室奈美恵さんなど数多くの著名アーティストに楽曲を提供する音楽プロデューサーであり昨年大盛況のうちに幕を閉じた大阪関西万博の閉会式で音楽監督を務めたNao’ymtナオワイエムティーさんに音楽家としての経験や大切にしてきた価値観とともにご自身の美学について伺います。

頭の中で急に映像のイメージが湧いてくる

――まずはNao’ymtさんの最近のご活動についてお聞かせください昨年はEXPO 2025 大阪関西万博の閉会式で音楽監督を務められましたがご自身にとってどのようなチャレンジでしたか?

順番としては万博の会期中に開催されたスペクタクルショーOne World, One Planet.の楽曲制作の依頼を閉会式よりも先にいただきましたプロデューサーの方から184日間毎日開催するのでお客さんが何回聴いても飽きない曲を作ってほしいと言われなかなか難題だなと思ったのを覚えています幅広い層に響く曲毎日聴いても飽きない曲とは?を考え私の25年間の音楽家生活の中で見つけた多くの方に好んでもらえるメロディーの流れや盛り上げ方を曲に込めて作りました
そしてこのショーが万博の中でもっともお客さんの注目度が高かったのでOne World, One Planet.を閉会式のテーマにすることが決定し音楽監督として全体も見てほしいという依頼につながりました閉会式は厳かな雰囲気の中で長時間行われ要人たちのスピーチなどを挟むので迫力を出しつつも耳心地の良さを意識しました制作期間が短くて大変でしたがすごく良い経験でした

――昨年は音楽家としてのキャリア25周年を記念したプロジェクト矢的直明2025も始動し毎月1曲ずつ新曲を公開されました三浦大知さんとのデュエット曲皆既なども話題になりましたがこちらはどのような試みだったのでしょうか?

音楽活動を始めて四半世紀が経ちふと自分の音楽を振り返ってみようと思ったんです過去にも矢的直明2014を制作しましたがこのときは自分の人生を振り返る試みでしたそこから11年経ち曲を作るときの気持ちにはあまり変化はないけど自分の声や歌い方が変わってきているのを感じましたたとえるなら昔みたいに速く走れないけどその分周りの景色を見ながら走る余裕ができたような感覚ですその変化を感じ前向きに受け入れながら1年間自分の音楽と向き合いました。

――素朴な疑問ですが曲を作るときの気持ちとはどのようなものなのでしょうかNao’ymtさんはどんなときに曲を作りたいと思われますか?

私の中には学生時代に出会い音楽制作の主軸となっているR&B的な視点と頭に浮かんできたシーンを曲にする映像的な視点というふたつのアプローチがあります特に後者は屋外でみんなで遊んでいるけど自分はひとりで佇んでいるなど頭の中で急に映像が浮かび上がりますそのシーンを入り口にして自分はひとりぼっちなんだけど地面を見たら花が咲いていて風にそよいでいるなど物語を追い掛けていくと曲が聴こえてくるのでそれを曲にして表現しています曲を作るというよりは曲が聴こえるので形にするという感覚です

頭の中に浮かんだシーンについてもっと知りたいときは似た風景を探しに行くこともありますたとえば三浦大知くんと作った球体の曲の中に雨が降るなか高架下で男女が話すという曲があるのですがこのときは”その”鉄橋を探し回りましたイメージにかなり近い場所を見つけたので鉄橋の下で電車が通る音を録音して曲に取り込んでいます

――頭の中にあるシーンを実際に探してその場所で録音するのはとても面白そうですね

フィールドレコーディングという手法です球体のときはレコーダーを手にさまざまな場所に行きその場所の音を収録して曲に使用しました電車の音以外にもセミの鳴き声や枯れ葉を踏む音が必要になれば季節が巡るのを待って録音しに行ったりそんなことをしていたので制作に3年もかかりました

自然の音や人の声とデジタルで作った音には本質的な違いがある

――自然の音にこだわってレコーディングをされたのはなぜですか?

自然の音や生の音はデジタルでは作れず自分がコントロールできる範囲を超えてくれるからですそれは生声を扱うボーカルレコーディングも同じでシンガーの声が作曲時の想定を超えてくる瞬間があるんですよね。

――アーティストとのお仕事でいうと安室奈美恵さんと三浦大知さんというふたりの大スターにも楽曲を提供されていますが彼らとのお仕事では何が印象的でしたか?

安室さんとの仕事で特に印象に残っているのは初めて楽曲提供させていただいたQueen of Hip-Popです最初にデモ音源を2パターン作ったのですがひとつはJ-POP色の強いR&Bでサビで分かりやすく盛り上がるトラックもうひとつはR&Bの魅力であるループのグルーブ感を生かしたシンプルで攻めたトラックでした当時の日本の音楽シーンの傾向としては前者を選びたくなるところですが安室さんはこっちの方がかっこいいとシンプルな方を選びましたまさに私が選んでほしい方だったので嬉しかったですねご本人はまさしくスーパースターという感じで初対面でスタジオに入ってこられたときはそのオーラに圧倒されて思わず席から立ち上がったのを覚えています。

三浦大知くんも1曲目のInside Your Headが強烈に記憶に残っています当時日本でもR&Bは流行っていましたが一緒に音楽を作りたいと思える新しい方はなかなか現れませんでしたそんななか大知くんからの依頼がありレコーディングのときにスタジオで簡単なマイクテストから始めたんですが歌声を聴いたときにビビビビッときましたなんだこの声すごいぞみたいな聴いたことのない響きというか煌びやかだったんですねデジタルでは出すことのできないヴェールが1枚剥がれたような本物のだと思いました。

――彼らの声にはデジタルには出せないものがある?

ありますねデジタルで生成された歌声と人の歌声の間には表現力においてやはり差があります特に感情表現人間の感情には楽しい悲しいだけじゃなくグラデーションがありますたとえば泣き笑いの感情などは生成した歌声では表現できないと思います技術が進めば近いものは作れるようになるでしょうがそこには本質的な違いがあると思います。

※楽曲制作の過程でブレスの位置や歌詞の表現強度を記した制作用メモ。

会いたいときに会いたいと言わずに表現するのが音楽

――Nao’ymtさんはSNSを通して陰翳礼讃な音楽を作っていますと発信されていますが陰翳礼讃な音楽とはどのような音楽でしょうか?

陰翳礼讃谷崎潤一郎の随筆から来ておりひらたく言うとうすくらがりの中に美を見出すという日本人が大切にしてきた考え方です日本家屋の室内などは西欧の人から見れば簡素な部屋かもしれませんがそこには日差しの入り方による光と影のグラデーションやコントラスト余白の美闇の中の色気などがあり日本人はそこに美を見つけてきましたこの考え方が好きで私も自分の音楽としてその影の美しさを表現したいとこだわりを持ちこの言葉を自分の美学にしています。

――そう伺うと余白や影の美をNao’ymtさんの音楽にも感じます行間を読ませる小説のようなあえて描かないことの美しさのような

そう言っていただけると嬉しいですねあえて描かないことはとても意識しています特に日本の音楽はストレートな歌詞が多く会いたいときに会いたいと言ったり悲しいときに悲しいと言ったりしますでもそれを言わないで表現するのが歌詞だしそこに美しさがあると思うんです受け手の方々に想像力を求めるのでなかなか難しいことをしていると自分でも思いますがそこは諦めたくないですね。

――陰翳礼讃という日本的な美意識をR&Bと組み合わせるのも面白いですね

R&Bは感情を露わにする音楽なのでむしろ真逆なのですがアンビエントミュージックを組み合わせることでシンプルなループや余白余韻影を表現しやすく陰翳礼讃な美も表現できると考えていますこの方法が自分の中でも魅力的に感じしっくり来るんです
アンビエントミュージック=音色や雰囲気を重視し穏やかさや瞑想の感覚を促す音楽ジャンル

――R&Bという海外で誕生した音楽を日本的な美学で表現するNao’ymtさんの姿勢はボールペンやシャープペンシルという海外で誕生したペンを日本的な美学で現代的にデザインするZOOMとしても共感する部分が大きいです。

確かに日本発のコンテンポラリーデザインペンとお聞きして私がチャレンジしていることとの共通点を感じます海外の文化をそのまま日本に持ち込めばいいかというとそうではないと思うんですよね日本の文化と上手く融合させることが必要でそれはあらゆるジャンルにおいて言えることだと思います。

――楽しいお話をありがとうございました最後にNao’ymtさんのこれからについて教えてください25周年プロジェクトを経てここからどんな音楽を作っていきますか?

私は円環が好きで人生の輪みたいなものを音楽のテーマのひとつにしています巡り初めに戻ってまた巡るという考え方ですね学生時代にR&Bに傾倒してその後プロの音楽家になりプロデュース業に挑戦し自分の音楽を作り私の音楽も25年が経ち1周した感覚があります今はスタート地点に戻りまたここから始めようという気持ちです次の周回に入り何がどう変わっているのかを確かめながら音楽を作っていきたいです。

Nao’ymt

矢的直明音楽家1998年にR&BコーラスグループJINEを結成2004年よりプロデュース業を本格的に始め三浦大知安室奈美恵leccaAIなど数多くのアーティストに作品を提供特に三浦大知の楽曲を多く制作し2018年にリリースされたアルバム球体では日本の美と輪廻転生というコンセプトを含め全17曲の作詞作曲およびプロデュースを一手に担った自身の歌唱にも定評があり矢的直明2014矢的直明2025などソロプロジェクトも精力的に展開している。

公式サイト:https://naoymt.com/ Instagram:@naoymt

Direction:CREEK & RIVER
Writer:島尻明典
Photo:TESOO KANG

pen : ZOOM L1 (アーバンシルバー)