――大江先生は大学卒業後に静芳書塾を開塾され、都立高校の書道講師を務めるほか、NHK Eテレにも講師として出演するなど精力的に活動されています。そんな中、2025年から静芳書塾オンラインを始められました。まずは、オンライン活動を始めた理由から教えてください。
2020年から始めたYouTubeの影響が大きいですね。特に大人の視聴者の方からさまざまな反響があり、「静芳書塾で学びたい」という声を数多くいただきました。ただ、静芳書塾は町の書道教室で近隣の方々を中心に教えているので、遠方の方が定期的に参加するのは難しいです。そこで、オンラインで静芳書塾を始めようと思いました。また私自身が「全国の人たちとつながり、書道の仲間づくりがしたい」と考えていたのも理由のひとつです。
――静芳書塾ではお子さんに教え、静芳書塾オンラインでは社会人に教えることが多いと思いますが、書が上手くなるのに、大人と子どもで違いはありますか?
幼い子は「こんな感じかな」と感覚で書く子が多いのですが、大人は「この線を伸ばして、ここで止めて」と考えながら書く人が多いと思います。考えながら書くことはとても大事なので、理屈を理解できればすぐに上達できますが、考えすぎるあまりに「なんで上手く書けないの?」という思考が頭の中を占拠してしまって、そのモヤモヤが上達を妨げてしまうことはありますね。でもその分、書と向き合い壁を乗り越えて上達したときの喜びは大きいと思います。
――書道とは、壁を乗り越えるように上手くなっていくのですか?
書道は、坂道を上るというよりは、階段を上るように段階的に上達していきます。上手く書けない期間があり、それでも続けていると、ある日を境に書けるようになるんです。これは子どもの例ですが、ひらがなの「り」は筆を縦ではなく横にして払うのですが、これがなかなか難しくて、1~2週間かかる子もいます。 それが突然、綺麗な横向きの払いになって上手く書ける瞬間が来るんです。手、指、体が突然ひらめくような感覚で、「できた!」と自分でもすぐに分かります。
――書道って、成長を実感しやすい分野なんですね。少し意外でした
段位やコンクールなど、自分の上達を可視化できる機会も多いんですよ。静芳書塾オンラインでもメンバーみんなで公募展に挑戦してみましたが、賞をもらう方も多く、達成感と自身の成長を感じている方が多いと思います。大人になるほど、人から褒められたり、自分の成長を実感できる機会が減っていくと思うので、書道やペン字は大人の方にもおすすめです。
――大江先生ご自身は、書や手書きにどんな喜びや楽しさを見出していますか?
もっとも喜びを感じたのは高校生のときです。私に大学で書道を学ぶことを勧めてくれた先生の筆遣いが、まるで生きているように感じられました。「なんでこんなことができるの?」とショックでしたが、先生に習っているうちに少しずつ自分の筆遣いが変わっていき、先生の筆に近づくことができました。それまでも書道は好きでしたが、このときの嬉しさが強く残っています。
いま楽しいのは、書いていて、自分の手と筆が一体化する感覚を得たときです。こういうときはイメージした通りの線、形を書くことができます。アドレナリンが出るのを感じ、心から楽しくなります。
――日常生活でも手書きをされることは多いですか?
外出時はスマートフォンのメモ機能を使うこともありますが、家では手書きをすることの方が多いですね。特に手帳をよく使っています。
手書きで日記を書いたり、書を書くことで、1日の中で自分に向き合い、整理する時間を作っているんです。ただのメモならスマートフォンで十分ですが、「書く」という行為をともなうことで、より心を落ち着かせて整理ができると思います。それに手書きをすると、言葉がどんどん出てくるんです。私自身の感覚としては、指先と手、腕を動かす刺激が脳に伝達されて、どんどん言葉やアイデアが浮かんでいくようなイメージです。
――確かに、「手を動かすことで脳が刺激される」という経験に心当たりがある方も多いと思います。
それに手書きは、紙面のどこに書くのも自由で、文字に大小や強弱をつけるのも簡単です。デジタルはソフトによっては行えますが、時間がかかります。この簡単さが実は大事で、自分の感情や考えの大事な部分をダイレクトにアウトプットでき、後で確認したときに、そのときの気持ちや思考を思い出しやすいと思います。デジタルは文字が羅列してアウトプットされるので、書いたときの気持ちまではなかなか思い出すことはできません。
また手書きは、「人に想いを伝える」ツールとしても機能しますよね。今の時代は、手書きであること自体に、相手に「私のために時間を割いて書いてくれた」と伝える効果があります。年賀状もそうだし、ちょっとしたプレゼントに付箋を添えてひと言書くだけでも気持ちを伝えられます。
――日常生活で手書きをするときは、どんな筆記具を使っていますか?
ボールペンを使うことが多いです。油性ではなくゲルインクの方が文字に強弱を付けられるので、好んで使っています。軸も同じく強弱を付けやすいので太い方が好きで、重さもある程度あった方書きやすいです。軽いと握り込んでしまい、可動域が狭くなってしまうことがありますから。
ZOOM L1は太さと重さのバランスがよく、ちょうど私好みです。ゲルインクで文字に強弱を付けやすく、インクの乾きが早いのもいいですね。手帳に日記を書くときや、封筒に宛名書きをするときに使いたいです。
――貴重なお話をありがとうございました。最後に、大江先生にとって「書く」こととは何かを教えてください。
気持ちや考えを表現したいときや人に何かを伝えたいときに、「書く」という行為をともなうことで、頭の中の考えがよりクリアに整理され、心を落ち着かせることができます。手書きには、頭と心を整えて自分の内面と向き合う、マインドフルネスの効果があると思います。
書道家。9歳から書道を始め、小林勧掌に師事。大東文化大学 文学部書道学科で教員免許を取得し、卒業後、「静芳書塾」を開塾。2020年、YouTubeチャンネル「静芳(せいほう)のYouTube書塾」をスタートし、現在は登録者数14万人。テレビ出演や書籍出版、個人・企業向けのペン字講座講師、ロゴ提供など幅広く活動する。
大江静芳 Webサイト 静芳(せいほう)のYouTube書塾
Direction:CREEK & RIVER
Writer:島尻明典
Photo:吉村永
Pen:ZOOM L1(スモークカッパー)