手書きの線には人の情報が乗り多様な表現ができる|青山浩之

手書きプラス

2025.7.31

デジタルが主流になりつつある現代において手で書くことに造詣が深い方々にお話しを伺い手書きの魅力を伝える手書きプラス今回は美文字の提唱者として知られ書家としても活躍する横浜国立大学 教育学部教授の青山浩之先生にご自身の研究テーマや手書きの魅力重要性について語っていただきました。

書写はお手本通りに書くものではない

――青山先生は書家としてテレビ番組に多数出演されていますが本業の大学教授としては何を教えどのようなことを心がけているのでしょうか?

大学では小中高の学校教員を目指す学生に向けて書と書教育を教えています国語科の中に書写という学習領域があり教員になるために書写の知識や技能を身に付ける必要があるんですまた高校の芸術科目の書道の教員免許を取るための授業も行っています授業でもっとも心がけているのは書写はお手本通りに書くことを目指すものではないと理解してもらうことです。

――書写はお手本通りに書くものと思っていたので少し意外です

そう思われる方は多いですね実際多くの教育現場でもそう思われていますしかし教育とは本来学習者に課題を持たせ課題を解決する過程で資質能力を身に付けてもらうことが目的のはずです手本通りに10回書けというような授業はナンセンスでこれでは学習者は課題意識を持ちにくく主体性のない子に育ってしまいます

私はここに問題意識を持ち授業改善を研究テーマとし自分で課題を見つけて練習し自分の文字の質と書く技能を高める教育をするべきと考えて研究や指導を行っています自分の字と手本を見比べてどのように書けば整うのかを考え修正するかが重要で自分の力で改善できたと感じられると達成感を得られますこれが学習の本質でありこのような授業を学生たちが教員になったときに自分の生徒たちにも行ってほしいと願っています。

若者世代も手書きに温もりや個性を感じ大切にしている

――お手本を真似るのではなく自分の字をどう綺麗にするか考えることが大事なんですね最近はデジタル機器の普及で手書きの機会が減ってきていますが青山先生はどう思われますか?

機会は減っていますが手書きが重要であるという意識はむしろ増えていると思いますたとえば国語に関する世論調査手書き習慣は,これからの時代においても大切にするべき?と聞いたところ91.5%の人が大切にするべきと答えその理由に漢字などを正確に身に付けることにつながるから手書き文字は印刷文字にはない情感を込められるからなどの回答が多く見られました
※平成26年度国語に関する世論調査文化庁より

この傾向は特に10代~30代の間で顕著ですねSNSなどデジタル的なつながりが広がるほど手書きへの回帰意識が生まれていると感じます手書き文字をわざわざ写真に撮ってSNSにアップするなど手書きに温もりや個性を感じ大切にしている若者世代も多いようです。

――若い世代が敏感に察知する手書き文字の魅力の本質は何でしょうか?

文字のにあると思います線は情報そのもので読み手は線を見ただけで忙しく慌てて書いたのかじっくり腰を据えて書いたのかが分かり力強さや繊細さを感じ書いた人の年齢や性別までなんとなく想像することができます手書きの線には書いた人の情報が乗り多様な表現ができるんです

そして文字を書くテクニックを磨くほど情緒などの情報も込めて表現できるようになります線の太さに強弱をつけたりかすれさせることで見る人に情緒を感じさせることができるんですね

また手書きは手を使って書き留める行為が脳と連動し記憶が定着しやすくなります勉強をするときなど何度も書くと覚えやすいのはこのためですこれらがデジタルとの違いで魅力だと思います

文字に向き合うことで集中力や注意力を鍛えられる

――青山先生は美文字を発案し広められましたがどのような想いから生み出したのでしょうか?

平成18年ごろにNHKのためしてガッテンというテレビ番組で隙間均等法について話したのが始まりですねデジタル化が進む中で手書き文化への関心が薄くなったことへの危機感がきっかけで学校教育の場から社会に向けて手書き文化の重要性を伝えたいと思いました。

――美文字を習得するにはやはり青山メソッドの隙間均等法がおすすめですか?

即効性は高いです1時間も練習すればコツを掴んで自分の字が変わってきたと実感できると思いますよ方法は名前の通りですが文字の中の隙間を均等にして書くことを心がけますたとえばという漢字の場合四つの隣り合う隙間が同じ大きさになるように意識して書きます人は文字の線を見ていると思いがちですが実は線と線の間も見ておりその隙間が均等だとバランスよく見えるんです少し複雑な漢字でも隣り合う隙間を均等に書くだけで読みやすい文字になります

また書くときは指の動きや書く動作も重要ですこのZOOM L1のように少し重量感のあるペンを使うといいですね

ペンは親指人差し指中指でつまむように持ちますがある程度の重量感があると持ち方が安定しやすくペン先に向かって力を均等にかけることができます指先に込める力の加減をペンの重さがサポートもしてくれる感じです書き心地を確かめたいときは円を書くのがおすすめです指の曲げ伸ばしで安定して円を書けると自分に合ったペンといえます。

ZOOM L1はキャップを後ろにはめた状態で書くと適度に重量感があって書きやすいですねと青山先生

――美文字を練習すると字が綺麗になる以外にどのような効果があるのでしょうか?

美文字の練習など文字を意図的に書くことにより集中力や注意力も養われますというのも字を綺麗に書こうとすることによって一本の線の美しさへのこだわりが生まれ筆圧はどれくらいがいいかこの線はどの辺りまで伸そうかなど瞬間ごとに脳を働かせ手指の動きに注力するからですこれにはとても集中力と注意力を必要とするため字の練習を続けると自ずとこれらの能力も鍛えられるといえます。

――貴重なお話をありがとうございました最後に改めて青山先生の手書きへの想いを教えてください

人は自分の考えをまとめるとき人に何かを伝えるときなどに文字を書きます人に何かを伝えるのであれば
形が整っていて読みやすく線の強弱や間隔が調整されているような文字によって読む人の気持ちを心地よくしたり和らげたりすることができます
本当の美文字とは見る人のことを考えた文字であり人に優しい文字だと私は考えていますできれば皆さんにもそんな気持ちで文字を書いてほしいと思っていますまた教育者を育てる立場としても学生たちには人に優しい文字を書き読む人に寄り添う文字の書ける教師になってほしいと願いながら日々授業を行っています

青山浩之

横浜国立大学 教育学部 学校教員養成課程 国語日本語教育講座 教授書家全国大学書写書道教育学会常任理事長年にわたり書写書道の教育研究や教員の育成文部科学省検定教科書の手本執筆編集などを行うとともに美文字を書くための青山メソッドを開発著書に美しい文字は脳がつくる! 永久美文字レッスン西東社“きれいな字”の絶対ルール日経BPなど多数。

横浜国立大学 創基150周年記念事業として建立され青山教授が揮毫したみはるかす碑みはるかす見晴かす=はるかに見渡すの意横浜国立大学の学生たちが半世紀以上にわたって歌い継いできた学生歌

Direction:CREEK & RIVER
Writer:島尻明典
Photo:TESOO KANG

Pen:ZOOM L1(グラファイトブルー)