――青山先生は、書家としてテレビ番組に多数出演されていますが、本業の大学教授としては何を教え、どのようなことを心がけているのでしょうか?
大学では、小中高の学校教員を目指す学生に向けて、書と書教育を教えています。国語科の中に「書写」という学習領域があり、教員になるために書写の知識や技能を身に付ける必要があるんです。また高校の芸術科目の「書道」の教員免許を取るための授業も行っています。授業でもっとも心がけているのは、「書写は、お手本通りに書くことを目指すものではない」と理解してもらうことです。
――書写は、お手本通りに書くものと思っていたので、少し意外です
そう思われる方は多いですね。実際、多くの教育現場でもそう思われています。しかし教育とは本来、学習者に課題を持たせ、課題を解決する過程で資質・能力を身に付けてもらうことが目的のはずです。「手本通りに10回書け」というような授業はナンセンスで、これでは学習者は課題意識を持ちにくく、主体性のない子に育ってしまいます。
私はここに問題意識を持ち、「授業改善」を研究テーマとし、「自分で課題を見つけて練習し、自分の文字の質と書く技能を高める教育をするべき」と考えて研究や指導を行っています。自分の字と手本を見比べて、どのように書けば整うのかを考え、修正するかが重要で、自分の力で改善できたと感じられると達成感を得られます。これが学習の本質であり、このような授業を学生たちが教員になったときに、自分の生徒たちにも行ってほしいと願っています。
――お手本を真似るのではなく、自分の字をどう綺麗にするか考えることが大事なんですね。最近はデジタル機器の普及で手書きの機会が減ってきていますが、青山先生はどう思われますか?
機会は減っていますが、手書きが重要であるという意識はむしろ増えていると思います。たとえば「国語に関する世論調査」で「手書き習慣は,これからの時代においても大切にするべき?」と聞いたところ、91.5%の人が「大切にするべき」と答え、その理由に「漢字などを正確に身に付けることにつながるから」「手書き文字は、印刷文字にはない情感を込められるから」などの回答が多く見られました。(※)
※平成26年度「国語に関する世論調査」(文化庁)より
この傾向は特に10代~30代の間で顕著ですね。SNSなどデジタル的なつながりが広がるほど、手書きへの回帰意識が生まれていると感じます。手書き文字をわざわざ写真に撮ってSNSにアップするなど、手書きに温もりや個性を感じ、大切にしている若者世代も多いようです。
――若い世代が敏感に察知する、「手書き文字の魅力」の本質は何でしょうか?
文字の「線」にあると思います。線は情報そのもので、読み手は、線を見ただけで、忙しく慌てて書いたのか、じっくり腰を据えて書いたのかが分かり、力強さや繊細さを感じ、書いた人の年齢や性別までなんとなく想像することができます。手書きの線には、書いた人の情報が乗り、多様な表現ができるんです。
そして文字を書くテクニックを磨くほど、情緒などの情報も込めて表現できるようになります。線の太さに強弱をつけたり、かすれさせることで、見る人に情緒を感じさせることができるんですね。
また手書きは、手を使って書き留める行為が脳と連動し、記憶が定着しやすくなります。勉強をするときなど、何度も書くと覚えやすいのはこのためです。これらがデジタルとの違いで、魅力だと思います。
――青山先生は「美文字」を発案し、広められましたが、どのような想いから生み出したのでしょうか?
平成18年ごろにNHKの『ためしてガッテン』というテレビ番組で、「隙間均等法」について話したのが始まりですね。デジタル化が進む中で、手書き文化への関心が薄くなったことへの危機感がきっかけで、学校教育の場から社会に向けて手書き文化の重要性を伝えたいと思いました。
――美文字を習得するには、やはり青山メソッドの「隙間均等法」がおすすめですか?
即効性は高いです。1時間も練習すれば、コツを掴んで自分の字が変わってきたと実感できると思いますよ。方法は、名前の通りですが、「文字の中の隙間を均等」にして書くことを心がけます。たとえば、「田」という漢字の場合、四つの隣り合う隙間が同じ大きさになるように意識して書きます。人は文字の線を見ていると思いがちですが、実は線と線の間も見ており、その隙間が均等だとバランスよく見えるんです。少し複雑な漢字でも、隣り合う隙間を均等に書くだけで、読みやすい文字になります。
また書くときは、指の動きや書く動作も重要です。このZOOM L1のように、少し重量感のあるペンを使うといいですね。
ペンは親指、人差し指、中指でつまむように持ちますが、ある程度の重量感があると持ち方が安定しやすく、ペン先に向かって力を均等にかけることができます。指先に込める力の加減を、ペンの重さがサポートもしてくれる感じです。書き心地を確かめたいときは、円を書くのがおすすめです。指の曲げ伸ばしで安定して円を書けると、自分に合ったペンといえます。
「ZOOM L1は、キャップを後ろにはめた状態で書くと、適度に重量感があって書きやすいですね」と青山先生
――美文字を練習すると、字が綺麗になる以外にどのような効果があるのでしょうか?
美文字の練習など、文字を意図的に書くことにより、集中力や注意力も養われます。というのも、字を綺麗に書こうとすることによって、一本の線の美しさへのこだわりが生まれ、「筆圧はどれくらいがいいか」や「この線はどの辺りまで伸そうか」など、瞬間ごとに脳を働かせ、手指の動きに注力するからです。これには、とても集中力と注意力を必要とするため、字の練習を続けると、自ずとこれらの能力も鍛えられるといえます。
――貴重なお話をありがとうございました。最後に改めて、青山先生の手書きへの想いを教えてください
人は、「自分の考えをまとめるとき」や「人に何かを伝えるとき」などに文字を書きます。人に何かを伝えるのであれば、
形が整っていて読みやすく、線の強弱や間隔が調整されているような文字によって、読む人の気持ちを心地よくしたり、和らげたりすることができます。
本当の美文字とは、「見る人のことを考えた文字」であり、人に優しい文字だと私は考えています。できれば皆さんにもそんな気持ちで文字を書いてほしいと思っています。また教育者を育てる立場としても、学生たちには、「人に優しい文字を書き、読む人に寄り添う文字の書ける教師になってほしい」と願いながら、日々授業を行っています。
横浜国立大学 教育学部 学校教員養成課程 国語・日本語教育講座 教授。書家。全国大学書写書道教育学会常任理事。長年にわたり書写書道の教育研究や教員の育成、文部科学省検定教科書の手本執筆・編集などを行うとともに、美文字を書くための「青山メソッド」を開発。著書に『美しい文字は脳がつくる! 永久美文字レッスン』(西東社)、『“きれいな字”の絶対ルール』(日経BP)など多数。
横浜国立大学 創基150周年記念事業として建立され、青山教授が揮毫した「みはるかす碑」。「みはるかす」(見晴かす=「はるかに見渡す」の意)は、横浜国立大学の学生たちが半世紀以上にわたって歌い継いできた学生歌
Direction:CREEK & RIVER
Writer:島尻明典
Photo:TESOO KANG
Pen:ZOOM L1(グラファイトブルー)